背景
前回ゼロドリフトオペアンプADA4522を利用して電圧を増幅してみました。以前試したOP70よりADA4522は5倍ほど精度が良かったのですが、uA級のシャント抵抗の電圧を測定したい自分としてはあと10倍ほど高い精度が欲しかったので、2連結で精度を高められるか試してみました。
使ったもの
- Analog Discovery2 + PC
USB接続で利用できるオシロスコープです。
オペアンプで増幅後の信号測定に利用しました。
設定方法や使い方は以前書いた記事が参考になると思います。
Analog Discovery2を利用して電子部品に流れる電流量を計測してみた - ADA4522を利用した増幅回路2本
ADA4522の1回路版を2個利用する場合
記事ではこれを利用しています。 - ゼロドリフトオペアンプADA4522 *2
- SOP8変換基板
- ピンヘッダL型
SOP変換基盤に付けました。 - 1M1%抵抗
- 100k1%抵抗
- 10k1%抵抗
- 1k1%抵抗
- 1Ω1%抵抗
- 0.1Ω1%抵抗
- ジャンパワイヤ オスメス、硬いもの
- ブレッドボード
- ビニールテープ白 + マジック + ハサミ
抵抗やオペアンプのラベル付に利用しました。 - 3W級絶縁型DC-DCコンバーター(±5V300mA)MCW03-05D05
Analog Discovery2からの電力供給ではADA4522の2回路動作に電力不足が生じるようで不安定だったため、DCDCコンバーターを利用します。 - ブレッドボード用DCジャックDIP化キット(完成品)
DC電源をブレッドボードに引き出すための変換基盤です。 - 超小型スイッチングACアダプター5V2A
実験回路の電源です。
記事では紹介していませんが、下記の部品で回路を作っても同じ結果になるはずです。
回路
ADA4522を2連結した回路がこちらです。測定対象の電圧をR3の変更により変え、2個めのAD4522の増幅幅をR6の交換で変えまつつ、Voutを測定します。
電源はDCジャックからの5VをDCDCコンバーターに供給して±5Vを生成しています。
今回の回路は絶縁しなくて良いので、DCDCコンバーターのCommonピンはGNDに接続しています。
上記の回路を組むとこうなりました。
計測器のずれを把握
前回と同様にAnalogDiscovery2の1+と1-を測定前に接触させて4回測定した平均値をずれとして記録し、Voutに加算してVoutの実測値とします。自分が観測した範囲では、ずれは-20mvから60mVになることがありました。
1+と1-をGNDで接続させても-2mVずれるAnalogDiscovery2。
上記のように-2mVずれている場合は、測定結果に2mVを加算します。
測定結果
計算内容はこちらです。R1, R5: 1kΩで固定
R2: 100kΩで固定
R4: 1Ωで固定
Vplus: 5V
増幅幅: (1+R2/R1)*(1+R6/R5)
Vinの理論値: Vplus*R4/(R3+R4) [V]
Voutの理論値: 増幅幅*Vinの理論値 [V]
差V: Voutの実測値-Voutの理論値
差%: (誤差/Voutの理論値)*100 [%]
R3 | R6 | 増幅幅 | Vinの理論値[mV] | Voutの理論値[mV] | Voutの測定値[mV] (3回平均後測定機 ずれ修正値) |
差[mV] | 差[%] |
---|---|---|---|---|---|---|---|
10k | 10k | 1111 | 0.49995 | 555.4 | 557.3 | 1.9 | 0.34 |
100k | 10k | 1111 | 0.05 |
55.55 |
55.93 |
0.42 |
0.756 |
1M | 10k | 1111 | 0.005 |
5.555 |
6.543 |
0.9875 |
17.78 |
100k | 100k |
10201 | 0.05 | 510.1 |
506.15 |
3.95 |
0.774 |
1M | 100k |
10201 | 0.005 | 51 |
29.8775 |
21.12 |
41.42 |
考察
ADA4522を2重にすることで、50uVを1%以下の精度で測定可能
増幅幅1111倍でも10201倍でも、1%以下で測定できました。5uVだとブレッドボードの端子の抵抗が無視できなくなるのか、誤差が15%以上となる
50uVが1%以下なので5uVは10%以下で測定できて欲しかったのですが、15%以上の誤差となりました。また増幅幅が大きい方が誤差が大きくなりました。
1桁uVの測定となると、回路のはんだ付けなどにより端子の抵抗を下げる必要がありそうです。
まとめ
ADA4522の2連結により50uVを誤差1%以下で測定可能と分かりました。一方で5uVの測定は誤差が15%以上になり、回路の抵抗を減らす対策が必要そうでした。
9 件のコメント :
4端子法という、精度良く抵抗値を測定する方法があるので、接触抵抗の影響を取り除きたい場合は参考になるかもしれません。
コメントと情報ありがとうございます。
4端子法、電圧計と電流計をそれぞれ接続して合計4端子で電気抵抗を測定するものと認識しました。
今回の回路で言うと、測定対象の回路を4端子法で抵抗値を把握した後、その抵抗値を加味して測定電圧を補正する流れでしょうか。
まだ回路が明確に想像できていませんが、uVを測定したいやる気が出たら取り組んでみようと思います。
抵抗値を計算する場合、電圧値と電流値が必要です。電流値は、接触抵抗(寄生抵抗)と無関係に正しい値が測定できるので、4端子法で寄生抵抗の影響を取り除いた精度の高い電圧値を測定します。
今回の用途では電圧だけを必要としていると思いますので、その部分だけを参考にすれば良いかと思っていました。
あと、目標としている精度が高くなると、接触抵抗だけでなく今まで無視してきた誤差要因(温度依存性・湿度依存性・熱雑音・1/f雑音・応力依存性等)も見えてくるかもしれないです。やる気が出てきたらがんばってください。
情報ありがとうございます。
今回の場合に関しては電圧の部分だけを補正すれば良いと認識しました。
必要な回路をまだ思い描けていませんが、回路設計の際はその点を踏まえて取り組もうと思います。
精度が高くなると接触抵抗だけでない誤差も発生してくるのですね。
なかなか厄介そうです。
応援ありがとうございます。
ふと思ったのですが、方向性の違う手法で、以前使用されていたロードセル用のアンプAD(HX711)を使って微小電圧を測定してみてもいいかもしれません。24-bitなので理論的には分解能1nV程度で、入力換算ノイズが90nV(rms)であることを考慮しても1uVを測定するには十分な性能があると思います。
今回の場合シャント抵抗の値を測定したいので、抵抗4つをひし形に並べてロードセルと同じ回路を作って測定したら良いということでしょうか。
HX711のデータシートを見るとひし形に配列した抵抗の高電位側の電圧を2.7〜5.5Vにする必要があるようなので上記の回路では期待するように測定できないかもしれませんが、気が向いたら試してみようと思います。
情報ありがとうございます。
HX711は、シリーズレギュレータ付きの単なる差動入力のアンプ付きAD変換器です。ブリッジにする必要はないですし、2.7~5.5Vというのはアナログ側の回路を動作させるための電源電圧で、ブリッジ側は入力電圧が仕様の範囲を超えなければ何Vでも大丈夫です。測定したい微小抵抗の両端に入力端子を接続して電圧を測定する感じです。0V付近であれば、HX711を正負電源で動作させてあげると、中間付近の電位で使えるので特性がいいと思います。
OPアンプを使って回路を設計する方が気を使わなければならない点が多いので、回路設計する側からするとだいぶ簡単な印象です。
解説ありがとうございます。
そうなんですね、HX711を利用して微小電圧の測定を試してみます。
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