背景
赤外線リモコンを扱った記事で「リモコンでは1Aも流してないはず」というコメントをいただいたので、安いリモコンを買って電流量を調べてみました。その結果、1Aほどではないものの、表題の通り約0.3A流れていると分かりました。
備忘録を兼ねて測定に利用した回路や電流計測時の波形などを記事に残します。
使ったもの
- リモコン
- ドライバー
- テスター
- ケーブル
- はんだ + はんだごて
- ブレッドボード
- 0.1Ω抵抗
- オシロスコープ
Analog Discovery2を使いました。 - ジャンパワイヤ
- タクトスイッチ
電池だけでLEDを光らせるための実験用です。
リモコンを分解・改造
購入したリモコンはボタン付きの板を基板にシール付する形状だったので、電池の穴からドライバーを差し込んで表面の板を外します。基板と土台を固定しているタップネジ3本を外します。
分解できました。
載っているコンデンサは16V47uFでした。
LEDとコンデンサの周辺をテスターで調べたところ、コンデンサは電池と並列に、LEDのアノード(+側)は電池の+に、カソード(-側)はマイコンに接続されている回路でした。
ということで、LEDとマイコンの間に電流測定用のシャント抵抗0.1Ωを設置し、それの電圧変化から電流量を算出します。
オシロスコープのチャンネル1でシャント抵抗の電圧を、チャンネル2でMCU+シャント抵抗の電位を監視します。
そのために、リモコンの基板からLEDを取り外し、電池の+とLEDのカソードが繋がっていたマイコンのピンを引き出します。
(電池の電圧が知りたかったので電池のGNDも黒の線で引き出していますが、電流の計測では利用していません。)
リモコンを組み立て直して配線します。
電流測定用の回路ができました。
電圧の変化から電流量を測定
オシロスコープで測定した電圧の変化です。黄色はチャンネル1でシャント抵抗の電圧を表し、青はチャンネル2でLEDの電圧を示しています。
今回利用したシャント抵抗は0.1Ωなので、電流に換算する場合は
I = V / R = 測定電圧値 / 0.1
となります。
具体的には、40mVは0.4A、30mVは0.3Aの電流が流れるのを意味します。
信号全体
リモコンのAボタンを押した時の電圧の変化です。信号全体は約70m秒と分かります。
最初のまとまり
信号の始まりから9m秒まで発信されるまとまりを見てみます。シャント抵抗の電圧は最初は約30mV(0.3A)ほどありますが、電圧が降下して1.5m秒以後は約14mV(0.14A)に落ち着きます。
LEDの電圧は最初は約1.7Vありますが、電圧が降下して1.5m秒以後は約1.4Vに落ち着きます。
最初のまとまりの最初の部分
さらに細かく見てみます。赤外線リモコンの規格である38Hkzの周波数で生成されるパルス波でまとまりが構成されていると分かります。
13.5m秒信号のまとまり
今度は信号開始から13.5m秒付近のまとまりを拡大して見てみます。13.5〜14m秒のまとまりも最初のまとまりと同様に、38kHzのパルスで構成され、0.3Aから徐々に電流が減っていました。
コンデンサが無い場合: 最初のパルスで終わる
コンデンサが無い場合の挙動が気になったので、リモコンからコンデンサを外して実験してみました。回路図はこうなります。
ボタンを押すと最初のパルスは発生しますが、それによりマイコンへの電力供給が不足するのか、動きが止まりました。
ボタン電池で赤外線LEDをマイコンで駆動させたい場合は、コンデンサが必須のようです。
マイコン関係なくスイッチと電池でLEDを光らせた場合: 最初の数ミリ秒は約100mA流れる
今度はマイコン関係なく電池の性能が気になったので、ボタンを押すとLEDのカソードを電池の-に繋げるスイッチを設置して電圧の変化を見てみました。回路図はこうなります。
コンデンサが無くても約100mAがLEDに流れ、徐々に電流量が減っていきました。
ボタン電池の常時供給可能電流量は10mAなのでA級を流すのは厳しいという情報をコメントでいただきましたが、ボタン電池がコンデンサのように最初だけ多くの電流を流せる特性を持っていると分かりました。
それにより、38kHzのリモコンのパルスなら0.14〜0.3AでLEDを光らせられるようです。
終わり
リモコンを分解してLEDの直後にシャント抵抗を設置し、信号送信時に流れる電流を観測して下記のことが分かりました。- 信号の始まりはLEDに約0.3Aが流れている
- 信号のまとまりは38kHzのパルスで作られている
- 約1.5m秒でコンデンサ(47uF)に蓄えられた電力が使われつつ電圧が降下し、その後は電池から供給される約0.1Aの電力と均衡して約0.14Aのパルスになる
リモコンと同等の信号強度を得るには1Aは不要であり、LEDの付近にコンデンサを配置して信号の最初を強めに光らせれば、電流量を抑えつつはっきりした強度の信号を送信できそうです。
参考
「リモコンでは1Aも流してないはず」というコメントhttps://asukiaaa.blogspot.com/2018/05/arduino.html
変更履歴
2021.01.17コンデンサ無し、コンデンサとマイコン無しの場合の電流量の結果を加えました。
2023.12.22
「0.3〜0.14」の表記を小さい順の「0.14〜0.3」に変更しました。
読んで参考になったとき、「参考になりました」としか書けない場合が多いので、コメントしてないですが、いろいろ読んでます。
返信削除今回の実験の結果は、その通りなのだと思います。が、分解されたオプトサプライのリモコンの設計には、いろいろと疑問を感じてしまいます(笑)。
電解コンデンサに電荷がたまっている時、0.3Aで、電荷がなくなると0.14A流れていて、赤外リモコンとして動作しているのだとすると、ずっと0.14Aでも動作するはずです。で、この0.14Aというのは、電池(CR2025)の内部抵抗で決まっているのではないかと思います。
https://biz.maxell.com/ja/primary_batteries/pdf/CR_15j.pdf
Maxellの資料によると、CR2025の標準放電電流は0.2mA、最大電流は10mAなので、140mAも流したら十分な性能を出せずに使えなくなるのではないかと思います。大きいキャパシタを電池に並列に接続するのは、最大放電電流を超えるようなときに電荷を補うためのつけるわけですが、途中で電荷がなくなってしまうのは設計としてどうなのかと…?
さらに、電解コンデンサは漏れ電流が10uA程度と大きいはずなので、CR2025の電池容量170mAhは、何もしなくても漏れ電流だけで2年も経たずに無くなってしまうんですよねぇ。
そういうデザインでも製品として発売されていることも、参考になります(笑)。
コメントありがとうございます。
削除疑問を感じる設計のリモコンでしたか (^-^;
気になったので「コンデンサ無し」と「コンデンサとマイコン無し」の回路の様子も見て、記事に情報を追加しました。
「コンデンサ無し」だとマイコンが動かなくなりました。
「コンデンサとマイコン無し」の電池でLEDを光らせる回路では光り始めは約0.1Aが流れていたので、ボタン電池自身の静電容量によってカタログ値を超える電流量が流れている印象です。
電解コンデンサは10uAほど漏れ電流があるのですか。
村田製作所のセラミックコンデンサの解説によると47uFは絶縁抵抗1MΩ以上とあるので、村田製作所製の47uFコンデンサなら、3.3Vでの利用で3uA以下の漏れ電流となり、電解コンデンサよりは待機時間を伸ばせそうです。
「漏れ電流」というキーワードありがとうございます。
とは言え、コンデンサやマイコンが繋がっていると微量の電流が流れてしまうので、0.5Aほどを余裕で流せる自己放電が少ない電池をコンデンサ無しで利用する場合が最も待機時間を長くできそうだと認識しました。
参考になったり楽しんだりしてもらえていれば嬉しいです(^-^)